外なる社会運動家と内なる社会運動家
The Outer Activist and The Inner Activist
TEDx トークの原稿を書き、この本を書き始めた私の動機は、一般大衆に広く訴えることを選んだ社会運動家を手助けしようと思ったことです。その人たちは、コミュニティのプロジェクトに着手したり、活動団体を立ち上げたり、公衆キャンペーンを始めたりする「外向きの社会運動家」です。この本では、今までの人生で、社会全体の変革を先導しようとしてきた私の経験を紹介します。
何ヶ月にもわたる TEDx でのトークに向けての準備とその後の振り返りの中で、私はあのトークで触れた内容にはもっと深い意味と目的があったように思えてきて、隔靴掻痒の思いがしました。そんなある日、閃いて思いついたのは、あのトークで紹介した 5 つの教訓は、実は、自分の医療の実践において、患者の治癒を促すような良好な関係を形成するのに役立った教訓でもあったことです。
ある一連の原則が、あるシステムのすべての階層で、個人の治療から、大きな全体システムの改革まで、全く同じように当てはまる時、非常に強力ななにかを発見したことを知るのです。その時は、私たちは、自分たちの意図、行動、結果に深い共鳴と真正性を感じ取ることができるのです。
あなたの役割が何であれ、先生でも、看護師でも、ビジネスマンでも、医師でも、法律家でも、公務員でも、農夫でも、環境保護運動家でも、起業家でも、もし、この 5 つの原則を自分の仕事に取り入れれば、あなたは強力な変革者になれます。これを私は「内なる社会運動」と呼んでいます。
内なる社会運動家は、自分自身の職場やコミュニティで静かに活動し、自分自身の他者をインスパイアする実践により、変革の触媒となります。あなたは、生徒と特に優れた関係を築き、成長の余地を見出す教師かもしれないし、職場のいじめに対して静かに立ち向かい、所属部署の文化を変えてしまう看護師かもしれないし、持続可能な農法への投資を始める農夫かもしれない。
この新しい知見、内なる社会運動は、私が数年にわたって悪戦苦闘してきた自分自身の課題を解決してくれました。私は自分の時間のおよそ半分を、家から離れて嘱託麻酔医としての仕事に費やしてきました。私は、必要な専門医を呼ぶのに苦労している、たくさんのニュージーランドの小さな田舎の病院のために働いてきました。そういった仕事は、医療に思いやりを取り戻す全世界的なキャンペーンを展開したり、結婚生活の最初の頃の不遇でたまった借金を返すのに必要な収入となっています。
ときどき、私は、自分の医療の仕事を続けなければならないのを板挟みのように感じることがあります。病院の仕事なら、私と同じかもっとよい仕事をする麻酔医は他にいます。手術室で過ごす日はいつも、私は自分の本来の使命をおろそかにしているのではないかと思います。しかも、妻のいる家から離れているのは寂しいことです。
と同時に、わたしは自分の主張することを実践する機会があること、患者の治療に当たらせてもらえる名誉に与っていること、時にひとりの人間に大きな影響を与えることができること、職場での良いロールモデルできることは、忘れないようにしています。妻は、私が医療食を続けていることが、私の主張を、真正で、現実に立脚した、信頼できるものにしているといいます。
私はまた、ストレスフルで、荷が重く、非人間的な職場で働かざるをえない多くの医療職の人たちが経験している大きな苦難を目にしています。半数までもの医療職が、燃え尽きの症状を示しています。私は、教師や、その他の職業についても、同じだと知っています。
いろいろな個人から、私に手紙で、害のある職場環境をどう生き延びるべきか、あるいは医療を改革する運動にどうすれば参加できるかについて質問を受けるたびに、私はきちんと答える責任を感じます。その一例は数日前にある医学生からもらったこの手紙です。
私は病院での研修で、自分は、苦しんでいる患者に訴えを見て聞いてもらえていると感じてもらうよう、病院の見回りの後にも戻ってきて側にいる「思いやりのあるエルフ」にならなければならないと、自分に課していました。私は、できるときは必ずそうして、しかも、患者とのやりとりは、本当に心のこもった親切なものになるように心がけていました。しかし、それはひどく疲れることで、この調子で自分はこの医療システムの中で長く働き続けられるのだろうかと疑問に思うようになりました。
私たちが「Hearts in Healthcare(医療に心を)」運動を始めたとき、私たちは医療従事者のいくつものグループが、自分たち自身の職場で良い方向への変革に取り掛かってくれるものと信じていましたが、それはほとんど起こりませんでした。頑なな現行システムの慣行が人々をすり潰しているのです。私たちが成功したところは、何千もの個々の医療従事者に、自分たちの仕事のこころを思い出し、自分たちの患者に親切や思いやりを提供し、自分たちの回復力や、前向きさや、幸せを築く方法を見出すことを励ますことができたことです。
このような先駆者達の原動力は、まさに私の社会運動家についての TEDx トークで紹介した価値観や教訓そのもの、思いやり、判断しない、説得しない、専門家の地位から降りる、気前良さと奉仕で差し出す、そして、問題点を探すことより、常に一番いい仕事をしている人々の例を見つけること、です。私たちひとりひとりが、システムと格闘するのをやめ、その代わりに自分自身の有りように着目することを決断することで、変革への抵抗は消え去るのです。私たちは世界に強力な影響を与えることができるのです。